女帝マルガレータと修復者アルングリム

女帝マルガレータ

カルパチアで初の女帝となるマルガレータは即位の時点で53歳と高齢であり、その統治はあくまで皇太子アルングリムへの「繋ぎ」であるとみなされた。
女の皇帝に難色を示す貴族たちも多かったが、それ以上に味方も多かった。

 

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不徳のヨルンド(後編)

テッサロニキ大公タマス出征す」という報せはカルパチア中に即座に知れ渡った。

「卑劣な圧政者はギリシア劇の題材のようだ。今こそこれを打ち倒し、帝冠を正当な者の手に取り戻す」

と喧伝するタマスに呼応する兵達の士気は高く、その兵数は彼の同盟諸侯を合わせておよそ3万5千にも及んだ。

タマスはコンスタンティノープルからボスポラス海峡を東へ渡り、小アジア内のカルパチア領に侵攻した。
自らの本拠地の背後の安全を確保しようとしたタマスの動きを見たヨルンドは、アナトリア南西部の沿岸に全軍を上陸させるとタマスのいる北へ軍を進ませた。

両軍はマルマラ海に面するニカイアの平野で接触したが、カルパチアの軍勢に本来いないはずの軍旗が並び立つことにタマスの軍は動揺した。
戦神ハドゥールを奉じるタールトシュ達―生命の樹の戦士団が霊帝ヨルンドに従って参陣していたのである。

 

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不徳のヨルンド(前編)

苦難の継承

「放蕩皇子」ヨルンドの即位は諸侯から冷やかな視線で迎えられた。
特にオリョールの女僧アスタとの密通を重ねたことから、皇后シグリッドとその兄タマス(テッサロニキブルガリア・ヘラスの大公)との不和は深刻なものであった。


AI操作時点で不倫を重ねていたせいで最初からめちゃくちゃ嫌われている

他にもクロアチア王コスマス、ボヘミア公フリーリクなど、強力な諸侯たちは不徳の君主に容易に恭順することはなかった。

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串刺しブズリ

不本意な結末

居城における霊帝ゲルゲイの暗殺は、帝国に大きな衝撃をもたらした。
皇宮の周辺には直ちに厳戒態勢が敷かれ、諸侯を集めての宴席は緊急の会合に様変わりした。

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暗殺者は姿をくらませ捜査は難航する一方、重鎮たちは次代の為政者ブズリにいかに政権を移譲するかを話し合った。

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結果として、評議会の席はゲルゲイの頃から留任された者が多くを占めた。

ブズリの大叔父エイナル─聖帝ステイン2世に従い、クロアチアにおける対ビザンツの戦で斃れた─に連なる血筋のバイエルン王デネスが引き続き宰相となり、メリセノス・セニ家のクロアチアカリストスもまた3代の霊帝に続けて家令として仕えることとなった。

帝国の将軍には若輩ながら優秀な軍事能力を発揮するテッサロニキブルガリア両王のタマス─狂信者集団に襲撃されて首を切り落とされたアスビョルンの子。ブズリの従兄弟─が就く一方、密偵長にはブズリへの忠心と知謀を兼ね備えるエステルゴム伯ボドヴァルが新たに任命された。

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悲哀のゲルゲイ

従順な下僕

宴席を催すことは、人々と交流を深める素晴らしい機会だ。しかし、宴席における行動には細心の注意を払わねばならない。もてなす側ももてなされる側も、失言をしたり、不手際があれば醜態を晒す羽目になる。逆にそれらを防ぎ、彼らに心地よさを抱かせておけば、彼らは必ずや恩義を感じてくれるだろう。

皇宮の使用人達の前で、少し不恰好な顔をした男が宴について語っていた。
彼の名はステインの子ゲルゲイ。
父帝ステインから帝位を継いだ当代の霊帝である。

丸焼きにした豚を切り分ける時は、必ず粗熱をとってからにすること。肉汁を余計に逃すことを防ぐためだ。切り分けるためのナイフをきちんと研いでおくことも、肉の繊維を必要以上に傷つけず食感を損なわないためにやはり大切だ。最初は肩と足を取り外すために、骨の周りから垂直に刃を入れて…


ゲルゲイは従順で気前が良い人物であった。特に宴を好み、賓客に対して滞りなく饗することが彼の生きがいであった。
広大な領域と臣民を支配する帝王としてではなく、あるいはささやかな農場の主として生きた方が幸せだったかもしれない。

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聖帝ステイン

ステインは即位して程なく、ドニエプル川ドニエストル川の間、かつてマジャル人達が遊牧時代に居住していたエテルケズへ巡礼に赴いた。先の霊帝達と同様に、神の啓示を受けたことを示すことで宗教的権勢を得るための行事である。

「我はここに誓う。我が血と我が魂を神に捧げ、永遠なる忠誠を尽くすことを」
「我はここに誓う。我が身を神の剣と化し、悪しき者どもを打ち倒すことを」
「我はここに誓う。人々の繁栄のため、この身命を賭す事を」


モルダヴィア王ネホトが宮廷司祭を勤めている

ステインは祭壇の前で膝を折りながらタールトシュの聖句を唱え、聖酒が注がれた杯を受け取って中身を飲み干すと、神との「交信」を果たすために瞑想に入った。
「…………」
傍で控える司祭ネホトの表情は平静を保ち、新たな霊帝の所作を見守っている。
ステインはゆっくりと立ち上がると、一礼して聖堂の外へと退出した。

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